シンガポールで法人設立をしようと色々な会計事務所に見積をとっているのですが、情報の見方がわからなく、何を基準に判断したらよいかアドバイスを頂ければありがたいです。
お問合せありがとうございます。最近では日系会計事務所だけでも小規模~中規模までかなり数が増えてきましたから、見積りを取ると多くなるでしょうね。我々も日々クライアントとミーティングをしてから見積りを出すようにしていますので、①会計事務所に見積りを依頼する前に整理しておくこと、②日系会計事務所の特徴を確認することの重要性、の二点に分けてしっかり説明します。恐らく①に統一感がないと見積りが各社から出てきても比較がしづらいと思います。
①【シンガポール法人設立前に準備しておくこと】(逆にいえば、我々が見積りをする前によく聞くこと)。
(i) 株主は個人にするか法人にするか?(法人の場合は、親会社の決算規模‐売上、総資産、従業員数も伝える)
(ii) 事業内容:シンガポール法人の売上計画(初年度、2年目の売上規模)と現地体制(従業員は現地雇用か日本から送り込むか、または2年後の従業員数規模)
(iii) シンガポール事業の経理(日本でいうところの会計ソフトへの入力)は本社の経理が担当するか現地会計事務所に委託するか?この時にローカル銀行とのコミュニケーションが発生するため、社内に英語の話せるスタッフがいるかどうかもポイントになります。
(iv) 細かいところでいうと、シンガポール法人からの毎月発行する請求書数、毎月支払いをする取引先(サプライヤーなど)の数も計画しておくこと。
(v) 試算表を会計事務所から提出する頻度。
(vi) ノミニー役員が必要か?
上記をもとに以下のような見積り依頼メールのドラフトを作成したので、メールで依頼する時の雛形としてお使いください。売上げ等の数字は御社の状況に応じて随時変更してくださいね。
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【模範例】お世話になります。OO社のOOです。現在2023年O月をターゲットにシンガポール法人設立を検討しております。当社の日本国内事業がOOO業であるため、現在の海外売上を集約するための物流拠点として設立を検討中です。株主は日本法人100%となり、日本法人決算概要は売上20億円、総資産2億円、従業員数35名です。シンガポール法人設立後は現在の海外取引(約3億円、うち約0.5億円はシンガポールのお客様)はシンガポール法人からとして、日本人1名と現地従業員3~4名で立ち上げ3年間程度は運営予定です。1年目は毎月6社の請求と取引先約10社への支払いがシンガポール法人から発生し、銀行の処理は当社の英語対応ができるスタッフが担当予定です。また、試算表自体の報告は毎月は不要ですが、四半期で経営会議があるため、四半期で試算表を締める流れで進めたく思います。期中ではシンガポールと日本間の取引で、当社の顧問税理士の先生を含めた個別の税務の相談をする場合があります。日本人1名のスタッフについては現在経営企画にいる社員で、労働ビザを取得してシンガポール着任、その後、現地法人の役員に就任する予定です。それまではノミニー役員の名義を必要としています。以上の内容で、御事務所で対応頂く場合の見積りをお願いできればと思います。
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それでは次に、「シンガポール法人設立前に準備しておくこと」6項目の裏にある本音の解説を行いたいと思います。
【①会計事務所に見積りを依頼する前に整理しておくこと】会計事務所に見積りをリクエストするためにこんなに細かく!と思うかもしれませんが、これだけやっておけばその後が比較的簡単に進められます。それぞれの質問への回答がなぜ必要かを「受け手」目線(会計事務所目線)で解説します。
(i) 株主は個人にするか法人にするか?(法人の場合は、親会社の決算規模‐売上、総資産、従業員数も伝える)【西田本音解説】設立は個人のほうが提出書類が少なくすむため、簡単です。法人株主の場合は、日本法人の株主(日本では正式な株主リストがないため、税務申告書の別表その2を使います)の提出やシンガポールの銀行口座開設の際に、株主が複数いる場合はパスポートの提示を求められたりするため手続きに時間がかかります。また、法人株主の場合は、親会社の法人を含めた上でシンガポール法人に「会計監査」が必要かをジャッジします。その場合は、「会計監査」費用も全体費用に見込んでおく必要があるため、この質問をさせていただいています。(業種に伴うリスク度合いで、まずは個人株主から進める場合も最近はよくあるでしょう)
(ii) 事業内容: シンガポール法人の売上計画(初年度、2年目の売上規模)と現地体制(従業員は現地雇用か日本から送り込むか、または2年後の従業員数規模)【西田本音解説】シンガポールに長くいると、色々な業種の方にお会いする機会があります。時にはマネロンリスクの高い事業など、会計事務所としてはできれば回避したい事業からの問合せもよく受けています。この質問はシンガポールでどのような事業をやろうとしているかというKYCの一環となります。そのため事業内容はできるだけ細かく記載されることをおススメします。また、日本人などの採用や派遣を検討しているかで「就労ビザ(Employment Pass)」の見積りやローカル従業員むけの「Payroll(給与計算)」が必要かも判断します。また、売上規模の重要性として年間S$1Million以上の売上はシンガポール国内の消費税登録事業者となり、四半期単位での消費税(GST)申告業務が発生します。これらの見積りが必要かなどの判断もします。
(iii) シンガポール事業の経理(日本でいうところの会計ソフトへの入力)は本社の経理が担当するか現地会計事務所に委託するか?経理については、ローカル銀行とのコミュニケーションが発生するため、社内に英語の話せるスタッフがいるかどうかもポイントになります。
(iv) 細かいところでいうと、シンガポール法人からの毎月発行する請求書数、毎月支払いをする取引先(サプライヤーなど)の数も計画しておくこと。【西田本音解説】会計事務所の経営といいましても、日々の運営は結構労働集約型のビジネスなのです。そのため、毎月の仕分け作業や会計システムへのデータ入力作業、試算表のレビューなどの作業ボリューム感を正しく把握する必要があります。当社でも、データ入力までを企業様の本社スタッフに対応していただき、当社は試算表のレビューのみ対応、などで「割引」の対応をしているクライアント企業様もございます。また、最近はシンガポールの銀行からの質問も多く、それらの「対銀行」とのコミュニケーションについて本社対応が可能か、それとも当社のような会計事務所で対応した方がよいか、なども考慮して見積もりを出させていただいております。
(v) 試算表を会計事務所から提出する頻度。【西田本音解説】日本では一般的に毎月試算表を締めますが、シンガポールでは事業の規模やライセンス要件にない限り、年1回の決算締めが基本です。株主や経営陣への業績報告のサイクル次第で「毎月」や「四半期」での報告も検討するべきです。
(vi) ノミニー役員が必要か?【西田本音解説】シンガポール法人の設立要件として「現地役員」(現地に住んでいる役員)があります。役員クラスがシンガポールに居住しない場合は、会計事務所等にノミニー役員(名目役員や名義貸しなど呼びます)を依頼することは一般的です。これらも見積りに含まれますが、注意点としては本来「ノミニー役員」はシンガポール法人の維持を目的に提供され、それ以外のシンガポール賃貸契約に署名、取引先に対して役員として個人保証をするものではありません。
さて、次に【②日系会計事務所の特徴を確認することの重要性】についてですが、特徴を把握する前に、シンガポールの労働市場を若干勉強しておき、前提条件を頭にインプットしておきましょう。コロナ前2018年度のシンガポールでは、スタッフの転職率(Turnover Rate)がアジア&パシフィックNo.1の46%(12ヵ月前に在籍していたスタッフが他社へ転職する割合)を見込むというニュースがでており、市場や国民性の本質的な部分はコロナ後もかわらないと考えます。ちなみに日本は安定的に10%レベルとのことです。前回の「①会計事務所に見積りを依頼する前に整理」をした上で取得した見積りを比較していきましょう。シンガポール法人設立+運営のサービスと特徴として大きく3つのステージにわけることができます。①設立費用(銀行口座開設まで)、②会計初期費用、③年間維持費用。これらに分類した上で、コスト比較するとよいです。補足解説しますと、①設立費用(銀行口座開設まで):
これは法人登記費用、法人登記住所費用、各種サービス(ノミニー役員費用など)のデポジットが入ってきます。②会計初期費用:会計ソフトの導入費用、資本設計などの相談料等が入ります。③年間維持費用:試算表というアウトプットを出すために必要なサービス料、年に1回の決算や税務申告費用、決算書の政府登記代行費用などが含まれます。ポイントは2年目も必ずかかってくる費用として維持費用全体を把握、整理しておくことです。【西田本音解説】私もシンガポールで会計事務所の経営をしており、横の繋がりも一部ありますが、自社のスタッフや他社の担当などをみていても、それぞれ体制面に特徴があると感じています。また、現在ベトナムで新設法人を作ったばかりなので、このプロセス(どうやって会計事務所を選ぼうかな)の迷い処がとても分かります。もちろん、最終的にはバジェットと担当などと打ち合わせをして印象で決めるという形になると思いますが、ミーティング中に確認しておきたいポイントは①複雑な税務に対応できる会計事務所か?②日本語対応をしている担当の英語レベル(または中国語レベル)③見積りの中で今のクライアントが利用している最も多いサービスは何か?(いわば、その会計事務所の得意分野ですね)の3点です。
会計事務所との初回ミーティングは重要です。まぁある意味面接ですね。会計事務所とは長いお付き会いになるため、相性も重要です。当然、途中で切り替えや会計事務所から契約解除などもあるため一概に長期とは言えませんが。(実はうちも2年前に株主日本人、役員アメリカ人弁護士の企業と契約解除しました。。笑)前述の3つの確認項目はある意味、逆にとらえることもでき、①自社事業は税務にそんな複雑な事業ではない、②自社に英語対応できるスタッフがいるという体制をお持ちであれば、日系会計事務所ではなくローカル系のオンライン会計事務所などを検討されると、コスパ面ではよいと思います。さて、そうでない場合は、①複雑な税務に対応できる会計事務所か?この質問への会計事務所の対応を確認するには、最近あった日本側での国際税務調査の事例をあげてもらうとよいです。どこまで深く税務調査に携わっているかがKEYです。税務対応はそこが全てといっても過言ではないため、現場の経験が全てです。また、複雑な税務スキームは設計後に確認を行い、会計士または税理士から意見書を出すという流れが多いため、これが出せるかどうかが重要です。(口でどれだけアドバイスをしても意見書という責任がとれないのであれば無価値です。)そのため、税務面で複雑な事業を予定されている方はここが確認ポイントです。②日本語対応をしている担当の英語レベル(または中国語レベル)。この質問についてですが、日系会計事務所といっても全スタッフ日本人で固めるのはかなり異例で、ほとんどの事務所が業務自体はローカルスタッフやマレー系、フィリピン系、ミャンマー系のスタッフが担当しています。そのため、日本人が窓口になっているからといって、その人間が社内にスムーズにコミュニケーションできない場合は伝言ゲームが社内で発生します。私も他社の引継ぎ案件で別の会計事務所に訪問したところ、先方の日本人会計士とシンガポール人会計士が同席しており、その二人の通訳をしてしまったという情けない光景に出くわしており、正直これでは問題あるなとも思いましたので、ここも確認ポイントとしました。③最も利用の多いサービスとして、私がよく聞くのが「年次会計」(年に1回決算を締める) vs 「月次会計」(毎月試算表を締める)の割合です。一概には言えませんが、ラフな判断基準としては「月次会計」を多く行っている事務所は「事業内容をよく知っている事務所」として現場の体制(請求書、支払い、対銀行、またはライセンスマターに詳しい)が整っていると言えます。「年次会計」が中心であっても業務的な接点は年1回や四半期に1回ですが、事業スキーム構築や税務対応に強い事務所であれば①の項目も十分に満たしていけるでしょう。(西田)