Vol.067 — 【実録】AIネイティブ 日本版(DAY3)「はい」しか言わないと、AIは育たない

掲載日: 2026-08-20 | ニュースレター


概要

Vol.067は、「AIネイティブ 日本版」の第3回(DAY3)である。ある化粧品メーカーの社長とスタッフのお二人と進める全4回の研修も、今日で3日目。DAY1は自社サイトの文字修正が約2分で終わって言葉を失った日、DAY2はお一人が自力で初めてのサイトを作り上げていて西田のほうが驚かされた日だった。今日はまず、報告から始まる。「ChatGPTの使用量が上限に達したので、上のプランに切り替えました」——月20ドルから月100ドルへ、5倍である。宿題として出していたネットショップのSEO改善を、この一週間、かなりの量、AIウェブ担当者と一緒に進めていたのだから、当然のことだった。西田はこれを言い直す。これまで外の制作会社にお願いしていた仕事を、自分の手元で回し始めた——その分だけ使用量が増えた。つまり月100ドルは遊びの費用ではなく、新しい外注費である。しかもこれまでの制作費と比べると桁が違い、今のところその差はおよそ20分の1。「HTMLを書ける人が社内にいないから外注しています」と伺ってから、まだ2週間。その2週間で、お一人は「いつでも今の体制を見直せる」という位置に立った。切り替えるかどうかは客が決めることだが、更新頻度の高いビジネスでWEB運用を社内と社外から選べる状態になったこと自体が、この研修のいちばん具体的な成果だ、と西田は書く。宿題そのものもやり切られていた。商品説明、検索に必要な情報、画像まわり——前回の健康診断で「抜けている」と分かった箇所を一つずつ潰し、今日はもう一度その健康診断を回して、自分の目で「どこが良くなったか」を確かめた。この日いちばん嬉しそうな時間だった。研修前は直し方どころか何が問題かも分からなかったのが、今は見つけて、直して、良くなったことを自分で確かめられる。この一往復が回り始めたら、もう大丈夫である。DAY3の中身は、新しい機能ではなく「AIの育て方」だった。横で見ていて西田が気づいたのは、AIウェブ担当者の提案への返事が、ほとんど「はい」であること。仕事は進むし出来上がりも悪くない。だがこれは人間の部下と同じで、「はい」しか返ってこない相手には、こちらも次の出し方を変えようがない。良い使い手ほど、何が好きで何が嫌かを、理由をつけてはっきり伝える。理由を言葉にしようとすると自分の判断基準を自分で確かめることになり、AIとのやり取りがそのまま考える訓練になる。そしてその理由を書き留める場所が、記憶のファイルであり、好みのファイルだ。今日のテーマを、西田はこう言った——AIスタッフを、自分色に染める。伝えたのは、地味な三つ。一つ、作業はプロジェクトの中で新しい会話から始める。途中で決めたルールは、入り直したときにきちんと反映される。二つ、気づいたことは理由をつけて伝え、「どこに書き留めるか」まで指示する。常設のルールは指示書、会社の決まりごとは記憶のファイル、今週の途中経過は状況のファイル。この振り分けを省くと、同じ説明を毎回することになる。三つ、デザインの仕事では好みのファイルがいちばん効き、とくに大事なのは却下したときの理由である。「これでOK」より「これは違う、余白が足りないから」のほうが、はるかに情報量が多い。これを残しておくと、見た目の直しで何往復もする無駄が目に見えて減る。「息が合ってきたら紙のブローシャーのデザインも頼めますか」という質問には、もちろん、と答えた。すり合わせに使った時間と積み上がった信頼はそのまま資産になり、この相手は転職もしないし覚えたことを忘れもしないので、任せられる範囲はひとりでに広がっていく。一方、「週次・月次の活動報告も手伝ってもらえますか」には線を引いた。下調べは渡してよく、毎週決まった曜日に自動で走らせる設定まで覚えてもらった。だが渡してはいけない仕事が二つある。ひとつは週報そのもの——渡せば「毎週、自分で振り返る」習慣ごと外に出すことになる。もうひとつは議事録、とりわけ営業の場の議事録だ。AIは話された内容を書き起こせるが、どれが重要だったかは決められない。日本語のように曖昧さを含む言語では、言葉にされなかった部分にこそ意味があり、その判断はその場にいた人間の仕事である。任せる範囲を広げる話と、任せてはいけない線を引く話は、必ずセットだ。DAY3を終えて手元に残ったのは、新しい機能ではなくAIの育て方である。新しい会話から始めること。理由をつけて伝えること。その理由をどのファイルに残すか決めること。そして、却下した理由こそいちばん濃く残ること。シンプルにAIを。 いつもの仕事を、いつもの言葉で。