Vol.070 — 【実録】AIネイティブ 日本版(採用システム編)「削除すれば安くなる。でも、削除できない」 -4日間の記録。

Vol.070 — 【実録】AIネイティブ 日本版(採用システム編)

掲載日: 2026-09-19 | ニュースレター


概要

Vol.070は「AIネイティブ 日本版」の第6回で、テーマは採用、書かれているのは最初の4日間である。きっかけはAIではなく、値上げの通知だった。この会社は採用をクラウド型の採用管理システムで回している。求人票を出し、10社ほどの人材紹介エージェントがそこに履歴書を投稿し、人事担当が面接を組む。年間の利用料はおよそ100万円。料金は保存している候補者データの量で段階が決まり、応募が増えて段階を一つ超えたため、およそ4割の値上げになった。古いデータを消せば段階は下がる。だがそのデータこそが、応募者の重複を照合する土台であり、人材紹介エージェント側も自社サイトからの応募も同じ土台の上で確認している。消せば安くなるが、消したら仕事が回らない。西田はここに、契約時には誰も説明しない構造を見る——データを預けるほど便利になり安心にもなるが、その安心がそのまま値段の根拠に変わる。囲い込みは機能ではなく、データの置き場所のかたちでやってくる。今回の主役は新人ではなく二人である。一人は社外のお客様のDX支援を本業とするDXコンサルタントで、事前調査での生成AI活用レベルはL2、スキルを作った経験はない。もう一人は採用業務を毎日回している人事担当。業務を知り尽くした人と、仕組みの組み立て方を知る人を並べただけだ。1日目は何も作らず、1か月ぶんの採用の流れを最初から最後まで書き出した。手が止まっている箇所ははっきりしていた——履歴書は一通ずつ開き、10社とのやり取りは一社ずつ手作業、Zoomのリンクも一件ずつ発行する。痛みの中心は書類選考と面接日程の調整だった。2日目は現行システムの機能を七つの区分に並べ、残す・捨てる・一部だけに仕分けた。値上げの入口だった「データ容量・上限の管理」には✕が付いた。仕組みを自分たちの側に持ってくれば、その管理業務ごと消える。途中で、初日には出なかった痛みも出た。面接の評価を口頭で聞いて後から手で打ち直している——メモには「NG」とあった。そして同じ日に、DXコンサルタントは生まれて初めてスキルを作った。サンプルの履歴書100通をPDFのまま読ませ、学歴と平均在職年数で絞り込む書類選考のスキルで、これだけで書類選考の手間は4〜7割減った。続けて過去の求人票から新しい求人票を作るスキル(「簡単でした」)、Zoomのリンクを発行するスキル(試作)を作った。前日まで作ったことのない人が、翌日に三つ作った。3日目、西田は宿題を出すのをやめた。作るべきものがもう見えている人に課題を出しても、速度を落とすだけだからだ。来た質問はデータの置き場所の一つだけで、OneDrive、SharePoint、Googleスプレッドシートを試し、立場の違う全員が同じように触れるという理由でスプレッドシートに決まった。この日いちばん良かったのは技術ではない。横で見ていた人事担当が、頼まれてもいないのに「人材紹介エージェントごとの成績を見られるようにしたい」と提案したことだ。たくさん履歴書を送るエージェントは一見よく動いているように見えるが、合わない履歴書が大量に届けば確認作業が増えるだけで採用にはつながらない。量は価値ではない。この時点で、これは人事担当のために作られるものから、人事担当が一緒に作るものに変わった。4日目、残りの機能はDXコンサルタントが一人で入れた。画面は一つの万能な画面ではなく、人事担当、現場の採用責任者と社長、社外の人材紹介エージェントという三つの立場ごとに三つ——同じデータでも、見たいものと見せてはいけないものが立場ごとに違うからだ。そして、4日間でいちばん難しい問いが出た。「で、これをどうやって本番で使えるようにしますか」。西田は書く。作ることは、もう難しくない。難しいのはその先の導入——誰がログインし、何を見せて何を見せないか、データをどこに置くか、社外のエージェントにいつどう案内するか、という問いの束だ。今回は機能・スキル・接続設定・画面を一つのGitHubリポジトリにまとめてRenderにつなぎ、三つの立場それぞれにログインを用意する。稼働は10月、エージェントへの案内は10月半ばから。DX支援を本業とする人がAIコンサルタントになるとしたら、境目は三つの段階のうち最後にある——業務を分解して残す機能と捨てる機能を並べられること、自分でスキルと画面を作れること、それを毎日誰かが使うものとして導入できること。前の二つはもう手が届く。残るのは三つ目だけだ。最後に西田は、経営者として「解約できる状態」をつくる話で締める。特定のLLMと結婚せず乗り換えられるように設計する、という以前からの主張は、クラウドのサブスクリプションにもそのまま当てはまる。年間100万円が高いかどうかは主題ではない。問題は値上げを断れない状態にあることで、断れないのはデータがあちら側にあり、それが仕事の前提になっているからだ。断れる状態さえ作っておけば、使い続けるという選択も堂々とできる。AIネイティブプロジェクトが目指すのは、いま毎月払っているものを自分たちの側に持ってくること、そしてそれを、その業務を知っている人が作れるようになることである。シンプルにAIを。 いつもの仕事を、いつもの言葉で。